皆さんこんにちは。
本日は、与党デジタル社会推進本部 AIの進化と実装に関するプロジェクトチームが4月11日に発表した「AIホワイトペーパー~AI新時代における日本の国家戦略~」を踏まえ、事業者である私たちが目指すAI活用の姿を考えてまいります。
結論から申し上げますと、以下の3点に集約されるかと思います。
- 巨大データを取り扱う大規模言語モデルを元とする「基盤モデル」でなく、特定のサービスや地域、ターゲットを限定した"小さく""優秀な"(小規模・高性能)モデルで制作されたAIを活用すること
- AIを開発・活用するうえで、法規制(ハードロー)を遵守することに加え、自律的に"正しい"AIリテラシー文化(規律・規範:ソフトロー)をつくること
- CAIO(Chief AI Officer)を社内に設置し、人事制度の適正化・早期明確化、旧来システムの見直しや刷新等を進めること
小規模・高性能モデルが日本の未来を変える
2022年11月にChatGPT(GPT-3.5)がリリースされて以来、社会的に急速に認知され、手探りながらも活用されてきたAI。昨年2023年にはAIビックバンとも呼べるような急速な発展をみせてきました。
今年に入っても、引き続きアメリカのビックテックが大規模開発を進める中、各国でも特徴のある新たなモデルが続々と開発されています。また、生成AI が扱うデータは多岐にわたり、テキストだけでなく、画像、動画、音声、音楽、プログラミングなど、マルチモーダル化の流れが顕著に。マルチモーダル化とは、異なる種類のデータを組み合わせたり、お互いに関連付けたりしてデータ処理することで、新たなサービスやモノを開発する手法です。
ChatGPTを制作するOPEN AI社、Geminiを制作するApple社、Claudeを制作するAnthropic社などが手掛ける大規模言語モデル(基盤モデル)は、様々な分野での利用が広がっています。しかし、全てのニーズに大規模モデルが最適であるとは限りません。特に、日本国内の特定のサービスや地域、ターゲットに焦点を当てた「小規模・高性能モデル」は、より効果的で効率的なソリューションを提供できる可能性があります。
1. 日本特有のニーズに応える柔軟性
日本は、独自の文化や言語、ビジネス慣行を持つ国です。大規模モデルはその汎用性のために広範なデータを元にして学習されていますが、これにより日本の細かいニュアンスや特有の文化的背景を十分に理解できない場合があります。小規模モデルは、特定のデータセットや用途に特化することで、日本のローカルなニーズにより適切に応えることが可能です。例えば、地域ごとの方言や文化的背景を考慮したAIアシスタントを開発する際には、小規模・高性能モデルがその力を発揮します。
2. データプライバシーとセキュリティの向上
大規模モデルは膨大なデータを必要とし、これがプライバシーやセキュリティの問題を引き起こす可能性があります。一方で、小規模モデルは、必要なデータ量が少なく、特定のターゲットに絞ったデータを使用するため、データの管理が容易になります。特に、企業が顧客データを安全に扱う必要がある場面や、プライバシーに厳しい日本の法律を遵守する際に、この利点は顕著です。
3. コストパフォーマンスの向上
中小企業や地方自治体にとって、大規模モデルの導入や運用はコストがかさむことがあります。小規模モデルは、特定の用途に特化しているため、開発や運用のコストを抑えることができます。さらに、必要なリソースが少ないため、ハードウェアの投資や維持費用も低減できます。これにより、予算が限られている組織でも、AI技術の恩恵を享受できると考えられます。
4. イノベーションと競争力の強化
日本国内の特定のニーズに焦点を当てた小規模モデルの開発は、新たなイノベーションの源泉となり得ます。特に、ニッチな市場や特定のターゲット層に対する独自のソリューションを提供することで、競争力を高めることができます。大規模モデルに依存せず、独自の技術を開発することで、日本企業は国際的な競争においても一歩先を行くことができるでしょう。
AIリテラシー文化醸成の重要性
AI技術の発展とともに、その開発・活用における法規制(ハードロー)の重要性はますます高まっています。
日本国内でも、プライバシー保護やデータセキュリティ、差別防止といった観点からAIの使用を規制する法律が整備されています。しかし、AIが社会に与える影響力が増す中で、法律だけでは十分にカバーしきれない部分も存在します。そこで重要となるのが、AIリテラシー文化、つまり自律的に形成される「正しい」AIの使い方や考え方に基づく規律・規範(ソフトロー)の構築です。
1. 法規制(ハードロー)の限界
まず、法規制がどれだけ厳格に整備されても、すべての状況や技術進歩に対応するのは困難です。技術が進化する速度に法律が追いつかない場合、法の抜け穴やグレーゾーンが生じることがあります。また、法律は最低限の基準を示すものであり、道徳的・倫理的に「正しい」行動を常に保証するものではありません。AI開発者や利用者が法律の枠内であっても、社会に悪影響を及ぼす可能性がある行為を行うリスクは依然として存在します。
2. 自律的なAIリテラシー文化(ソフトロー)の必要性
AIリテラシー文化とは、AIを開発・活用する上での倫理的・道徳的な判断基準や価値観を共有し、それに基づいて行動することを指します。これには、単に法を遵守するだけでなく、社会全体の利益や人権、持続可能な発展を考慮した判断が含まれます。たとえば、AIによる意思決定が人々にどのような影響を与えるかを考慮し、バイアスを排除し、公平で透明性のあるシステムを設計することが求められます。
日本国内でこのような文化を醸成することは、以下のような理由から重要です。
- 信頼の構築: AI技術に対する信頼は、その技術が社会にどのように受け入れられるかに大きく依存します。法的には問題がなくても、社会的に受け入れがたいと判断されるような使い方は、AI技術全体への信頼を損なう可能性があります。
- イノベーションの推進: 倫理的・道徳的に正しいAIの開発は、社会全体の支持を得やすく、結果的にイノベーションを促進します。開発者や企業は、短期的な利益にとらわれず、長期的に持続可能な技術を追求することが求められます。
- グローバル競争力の維持: 国際的に見ても、AI技術の倫理的側面が重要視されています。日本が国際的な競争力を維持するためには、単に技術的な優位性を追求するだけでなく、倫理的なリーダーシップを発揮することが求められます。
3. AIリテラシー文化を育むためのステップ
では、どのようにして日本国内でAIリテラシー文化を育てていくべきでしょうか。以下にいくつかのステップを提案します。
コミュニティによるフィードバックと監視: AI技術の利用が社会にどのように影響を与えているかを評価するために、コミュニティからのフィードバックを積極的に取り入れる仕組みが必要です。また、透明性の高い監視体制を整えることで、不正使用を未然に防ぐことができます。
教育と啓発活動: AI開発者だけでなく、一般市民やビジネスリーダーに対しても、AIの倫理的な側面についての教育が必要です。学校や企業研修において、倫理的なAI開発や利用の重要性を教えることが有効です。
業界ガイドラインの策定: 業界団体や専門家によるガイドラインの策定は、実務における具体的な指針を提供します。これにより、開発者や企業が日々の業務で倫理的な判断を下しやすくなります。
企業におけるAI導入の鍵:CAIOの設置とDX化への取り組み
AI技術の進展は、ビジネスのあり方を根本的に変える力を持っています。しかし、単に技術を導入するだけでは、その真価を引き出すことはできません。AIを効果的に活用するためには、組織全体での戦略的な取り組みが必要です。
日本企業がAIを最大限に活用し、競争力を強化するためには、CAIO(Chief AI Officer)を設置し、人事制度の適正化・早期明確化、旧来システムの見直しや刷新など、事業や社会体制のDX化を進めることが重要です。
1. CAIOの設置によるAI戦略の推進
CAIO(Chief AI Officer)は、企業内でAI戦略を統括し、AI技術の導入・活用をリードする役割を担います。AIは多くの企業にとってまだ新しい分野であり、専門知識を持つリーダーが欠かせません。CAIOの設置には以下のような利点があります。
- AI戦略の一貫性と効果性の確保: CAIOは、企業全体でAI技術をどのように導入し、活用するかを統括することで、ばらばらな取り組みを避け、一貫性のある戦略を策定できます。これにより、AI導入の効果を最大化し、競争力を強化することが可能です。
- 部門間の連携強化: AIは企業内の多くの部門に影響を与えます。CAIOは、各部門との連携を促進し、全社的なAIプロジェクトの推進役となります。これにより、組織全体がAI技術の恩恵を受けることができます。
- リスク管理と倫理的ガバナンスの強化: AI技術の導入には、データプライバシーや倫理的な問題が伴います。CAIOは、これらのリスクを管理し、企業が社会的責任を果たしながらAI技術を活用するためのガバナンスを強化する役割を果たします。
2. 人事制度の適正化・早期明確化
AIを導入することで、人材に対するニーズが多様化し高まることが予想されます。新しい技術に対応できる人材の確保や育成が不可欠です。人事制度の適正化と早期明確化は、以下のような理由で重要です。
- AI人材の確保と育成: AIの専門知識を持つ人材は、現代のビジネスにおいてますます重要になっています。適正な人事制度を導入することで、AI技術を駆使できる人材の確保と育成が促進されます。また、AIに対応できるスキルを持つ従業員に対して、適切な評価とキャリアパスを提供することが重要です。
- 組織文化の変革: AIの導入に伴い、企業文化や業務プロセスも変革が求められます。人事制度を見直し、変革を促進する制度を整えることで、社員が新しい技術に前向きに取り組む姿勢を育むことができます。
- リスキリングとアップスキリングの推進: AI技術の普及により、既存の業務が自動化される一方で、新たなスキルが求められるようになります。人事制度を早期に明確化し、リスキリング(再訓練)やアップスキリング(スキル向上)のプログラムを整備することは、社員のキャリアをサポートし、企業全体の成長につながります。
3. 旧来システムの見直しとDX化の推進
AIの導入を最大限に活用するためには、旧来のシステムやプロセスを見直し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが不可欠です。
- レガシーシステムの刷新: 多くの企業は、過去に導入されたレガシーシステムに依存していますが、これらのシステムはしばしばAI技術との統合に適していません。システムの刷新や統合を進めることで、AIの効果を最大限に引き出すことができます。
- データインフラの整備: AIの活用には、大量のデータを効率的に処理・分析できるインフラが必要です。データの整備と管理体制の見直しを行い、DX化を推進することで、データ駆動型の意思決定が可能になります。
- プロセスの最適化: DX化により、業務プロセス全体を見直し、効率化を図ることができます。これにより、AI技術の導入が円滑に進むとともに、生産性の向上やコスト削減が実現します。
終わりに
AI活用は企業にとって喫緊で取り組むべき施策であることは論を待ちませんが、何から手を付けていいのか分からないこともあろうかと思います。自社内において「どのようにAI活用するべきか」をAIに聞いてみるというのも一つの手かもしれません。また、これまでGoogleやYahooで行ってきた検索をAIに置き換えてみるでも良いかもしれません。
当社でもホームページ制作やアプリ開発の現場でAIを活用するケースは多くございます。リテラシーに気を付けつつ、最大限の効果を生むことを目指すことは当然です。
そのうえで何より大切にしていることは、AIを利用してどのような成果物をお届けしたいか、どのような事業を行いたいか、どのような未来の会社像を目指すのかを問い続けることです。少しでもAIに興味がある方と未来の会社像についてお話しする機会を持つことができれば、こんなにうれしいことはありません。
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